このテーマとは

養殖テーマは、魚介類・海藻類の人工的な飼育・栽培事業全般を扱う。具体的には、(1) 海面養殖(マグロ・サーモン・ブリ・タイ・ハマチ・ホタテ)、(2) 陸上養殖(RAS:循環式陸上養殖・かけ流し式)、(3) 内水面養殖(ウナギ・コイ・アユ)、(4) 海藻養殖(ノリ・ワカメ・コンブ)、(5) 飼料・配合飼料・代替飼料、(6) スマート養殖(IoT・AI・自動給餌・水質管理)、(7) 種苗生産(人工種苗・完全養殖)、(8) 養殖関連機材(生簀・水質浄化装置・自動化設備)、までを射程に入れる。

事業環境は、漁業法・漁業権、食品衛生法、輸入水産品の関税・地政学、漁業資源管理、で形成される。世界的に天然漁獲は頭打ちで、養殖は水産品供給の主役に転換しつつある。

なぜ注目されているのか

第一の追い風は天然漁獲の頭打ちと水産品需要の構造的増加である。世界の天然漁獲量は1990年代から横ばいで、人口増・所得向上・健康志向(高タンパク・低脂肪・オメガ3)による水産品需要は構造的に増加している。需給ギャップを埋めるのは養殖であり、養殖生産量は世界水産生産量の半分を超えた。

第二に、陸上養殖(RAS)の本格化。陸上で循環式の閉鎖システムにより、天候・海洋環境に左右されず、寄生虫・疾病リスクが低く、安定的に高品質魚を生産できる陸上養殖は、サーモン・サクラマス・トラウト・キングサーモンを中心に世界で大規模プロジェクトが進行している。日本でも複数企業が大規模陸上養殖プロジェクトを立ち上げている。

第三に、完全養殖・人工種苗の進展。クロマグロの完全養殖、ウナギの完全養殖研究、ブリ・カンパチ・ヒラメ等の人工種苗化で、天然依存からの脱却が進む。種苗生産事業は技術参入障壁が高く、安定的な収益源となりうる。

第四に、スマート養殖・データ養殖の普及。IoT センサ(水温・溶存酸素・塩分濃度)、AI による魚の摂餌行動解析、自動給餌、水中ドローンの遠隔監視、で生産性向上・コスト削減が進む。配合飼料の効率改善、抗生物質削減、ストレス低減、で品質と環境負荷の両立が進む。

逆風は飼料コストの構造的上昇と、養殖海域の制約。魚粉・大豆ミールの輸入価格高騰、海面養殖は適地の限定・赤潮被害・温暖化の影響で生産が振れる。陸上養殖は電力・初期投資負担が重く、黒字化に時間を要する事例が多い。

関連する事業領域

含まれる業種は、水産・農林業(養殖事業者・漁業協同組合)、食料品(水産加工・販売・配合飼料)、機械(陸上養殖装置・自動化機器)、化学(配合飼料添加物・水質管理)、卸売業(水産流通)、サービス業(種苗・コンサル)、情報・通信業(スマート養殖 IoT・AI)など。総合商社の水産事業も大きな存在感を持つ。

「養殖銘柄」と一括りにすると見落とすのは、(a) 海面養殖と陸上養殖で投資負担・収益性・リスクプロファイルが大きく違う、(b) 種苗・飼料・機器・養殖事業・加工・流通でバリューチェーン位置取りごとに利益率が異なる、(c) 大手食品・水産企業の養殖事業は本業に対する売上比率が小さく、テーマ性と業績影響度が一致しない、という点。

財務的にどう評価するか

養殖テーマで最初に見たいのは、関連事業の売上規模と、対象魚種別構成、海面・陸上・種苗・飼料・加工の構成、自社養殖と仕入れ・委託の比率、である。海面養殖は天候・赤潮・水温で生産量が振れ、陸上養殖は稼働率・歩留まりで利益が決まる。

利益面では、種苗・飼料は安定的、海面養殖は市況連動、陸上養殖は減価償却負担で先行赤字、加工・流通は規模化次第。為替・原材料感応度(魚粉・大豆ミール)も収益に強く影響する。

落とし穴は3つ。第一に、陸上養殖は世界各地で大規模プロジェクトの立ち上げ遅延・中止・撤退の事例が相次いでおり、国内プロジェクトでも同様のリスクは大きい。第二に、海面養殖は天候・海洋環境で大きく振れ、赤潮・高水温・台風被害で年間生産量が大きく落ちる年がある。第三に、テーマ性で先行買いされた銘柄が、生産遅延・市況下落で見直し売りに転じる例が多い。

中長期では、陸上養殖の量産化・収益化、完全養殖の魚種拡大、配合飼料の代替原料化(昆虫・微生物)、スマート養殖の規模化、海外展開、が事業価値の指標になる。

該当銘柄の見方

該当社では、(a) 養殖関連事業の売上規模と魚種別構成、(b) 海面/陸上/種苗/飼料/加工の構成、(c) 主要対象魚種の市況感応度、(d) 大規模プロジェクトの進捗と投資負担、を最低限チェックしたい。

関連テーマの食料安全保障代替タンパクスマート農業飲料健康食品 と併読すると、養殖が単独業界ではなく、食料安保・水産業構造転換・タンパク質需要の交差点で動く食料供給インフラとして位置づけられる構造が立体的に見える。