このテーマとは
量子コンピュータテーマは、量子力学の重ね合わせ・もつれを利用して計算を行う次世代コンピュータと関連事業全般を扱う。具体的には、(1) 超伝導量子コンピュータ(IBM・Google・Rigetti 等)、(2) イオントラップ(IonQ・Quantinuum 等)、(3) 冷却原子・光格子(QuEra 等)、(4) 光量子コンピュータ、(5) 量子ハードウェア部品(極低温冷凍機・希釈冷凍機・特殊配線・マイクロ波制御・FPGA)、(6) 量子ソフトウェア・量子アルゴリズム、(7) 耐量子暗号(PQC)、(8) 量子クラウドサービス、までを射程に入れる。
事業環境は、各国の量子戦略国家計画、量子技術イノベーション拠点、輸出管理規制、で形成される。
なぜ注目されているのか
第一の追い風は各国政府の量子国家戦略と巨額投資。米中が数千億円規模、欧州・日本も数千億〜兆円規模の研究開発予算を投入しており、企業・大学・国研の量子コンピュータ開発体制が大型化している。日本では理研・産総研の量子コンピュータ初号機・2号機の運用、量子拠点形成、量子ソフトウェア研究開発拠点整備が進む。
第二に、創薬・材料・最適化への応用期待。化学反応シミュレーション(電子状態計算)、新材料探索、創薬リード化合物探索、組合せ最適化(物流・金融)、機械学習加速、で量子コンピュータの実用化が期待される。古典コンピュータでは現実的時間で解けない問題への新たな計算手段として、特に電子状態計算・化学領域での実用化が現実的とされる。
第三に、量子サイバーセキュリティ・耐量子暗号(PQC)の必要性。量子コンピュータが現行の RSA・楕円曲線暗号を破る能力を獲得すると、現在の暗号通信は無効化される。NIST 標準化された PQC への移行は10-20年単位の長期課題で、関連の暗号ハードウェア・ソフトウェア・コンサル市場が立ち上がる。
第四に、量子クラウド・量子ソフトウェアの市場形成。IBM・AWS・Google・MS Azure の量子クラウドサービスを通じて、企業ユーザーが量子コンピュータを利用する環境が整いつつある。量子ソフトウェアスタートアップ、コンサル、量子人材育成、の市場形成が進む。
逆風は実用化までの長い時間軸と、現状ハードウェアの誤り訂正能力の限界である。誤り耐性量子コンピュータ(FTQC)の実現は、量子ビット数・誤り訂正符号・物理層改善で2030-40年代までかかる見込みで、実用化フェーズと業績への寄与までのラグは大きい。
関連する事業領域
含まれる業種は、情報・通信業(量子ソフトウェア・量子クラウド・暗号)、電気機器(極低温冷凍機・希釈冷凍機・マイクロ波制御・特殊半導体)、機械(極低温装置・真空装置)、化学(特殊配線・コーティング)、サービス業(量子コンサル・人材)など。
「量子コンピュータ銘柄」と一括りにすると見落とすのは、(a) 量子コンピュータ本体メーカー(米中欧の専業企業中心)と部品サプライヤ(極低温冷凍機・特殊半導体・配線)と量子ソフトウェアでビジネスモデルがまったく違う、(b) 大手企業の量子コンピュータ事業は本業に対する売上比率が極めて小さく、テーマ性と業績影響度が一致しない、(c) PQC・量子サイバーセキュリティは中期で実需が立ち上がる確率が高く、量子コンピュータ本体より早く事業化する可能性がある、という点。
財務的にどう評価するか
量子コンピュータテーマで最初に見たいのは、関連事業の研究開発投資、政府研究プロジェクト受注、特殊部品・装置の受注高、PQC 関連製品ラインナップ、である。現状の売上はほぼゼロから極小レベルの企業が多く、業績への寄与より将来の事業価値ポテンシャル・特許ポジションでの評価が中心になる。
利益面では、現状は研究開発費負担で赤字フェーズが多い。極低温冷凍機・希釈冷凍機・特殊配線等の物理層部品メーカーは、量子コンピュータ研究機関・大手企業の研究開発投資の恩恵を構造的に取り込めるが、規模はまだ小さい。
落とし穴は3つ。第一に、テーマ性で先行買いされた銘柄が、研究開発進捗の遅延・実用化時期延期で大きく下落する例がある。第二に、大手企業の量子コンピュータ事業は本業比率が極めて小さく、テーマ買いの根拠としては弱い。第三に、量子コンピュータ本体は米中欧専業の競争領域で、日本企業の競争力は限定的な分野もある。
中長期では、量子コンピュータ本体技術の進展、PQC・暗号関連市場の立ち上がり、極低温・特殊半導体・部品事業の規模化、量子ソフトウェア・クラウド事業、政府研究プロジェクトの受注、が事業価値の指標になる。
該当銘柄の見方
該当社では、(a) 量子コンピュータ関連事業の売上規模・損益、(b) 本体/部品・装置/ソフトウェア/PQC のどの位置取りか、(c) 政府プロジェクト・大学・国研との連携、(d) 特許ポジション、を最低限チェックしたい。
関連テーマのAI・半導体・サイバーセキュリティ・創薬・機能性化学 と併読すると、量子コンピュータが単独デバイスではなく、計算基盤・暗号・創薬・材料探索を構造変化させる長期テーマとして位置づけられることが立体的に見える。