このテーマとは
SaaS(Software as a Service)は、自社サーバーへインストールするパッケージソフトの代わりに、クラウド経由でソフトウェア機能をサブスクリプション課金で提供するビジネスモデルを指す。会計・人事労務・経費精算・営業支援(CRM)・マーケティング・コミュニケーション・契約管理など、企業のあらゆる業務領域でSaaS化が進んでいる。
本テーマには、業務SaaSを開発・提供するソフトウェアベンダーが中心的に該当するが、セキュリティ・データ統合・PaaS基盤など、SaaSの周辺レイヤーを担う企業も含まれる。日本のSaaS市場規模は2024年に約1.3兆円規模と推計され、年2桁成長のペースを継続している。
なぜ注目されているのか
SaaSモデルの構造的な強みは、(1) 継続課金(サブスクリプション)による売上の予測可能性、(2) クラウド基盤の限界費用が低く粗利率を高水準に維持しやすい、(3) ユーザー数増加に対してマージンが拡大する規模の経済、の3点にある。これらが揃うと、売上成長と利益率改善が同時進行し、株式市場では高PER・高PSR(株価売上倍率)で評価されやすい。
需要側の追い風は、企業のDX投資・働き方改革・コロナ禍以降のテレワーク常態化・労働力不足対策・電子帳簿保存法やインボイス制度などの制度対応、と複層的に積み重なっている。中小企業向けSaaSは、IT専門人材を社内に持たない企業のDX入口として浸透が続き、エンタープライズ向けSaaSは大企業の基幹業務刷新需要を取り込んでいる。
ただし、市場の成熟化とともに、SaaS銘柄の評価には選別が入っている。2021年までの「赤字でも成長率で評価」のフェーズは終わり、現在は「Rule of 40」(売上成長率+営業利益率の合計が40以上)など、成長と収益性の両立が求められる局面にある。
関連する事業領域
含まれる業種は大半が情報・通信業だが、サービス業(人材SaaS・教育SaaS・医療SaaS)、その他金融業(フィンテックSaaS)、不動産業(不動産テックSaaS)など、業務領域別にバーティカルSaaSが広がっている。
SaaSベンダーの中でも、(a) 水平型SaaS(業務横断、CRM・会計・コミュニケーションなど)、(b) 垂直型SaaS(業界特化、医療・建設・小売・物流など)、(c) インフラ型SaaS(セキュリティ・データ統合・開発基盤)で顧客特性と競争環境が異なる。垂直型SaaSは業界知識による参入障壁が利き、価格決定力を持ちやすい傾向がある。
財務的にどう評価するか
SaaS銘柄を見るうえでのコア指標は、ARR(年間経常収益)成長率・解約率(月次/年次チャーン)・売上総利益率・LTV/CAC比率(顧客生涯価値÷顧客獲得コスト)・NRR(売上維持率)。これらは有報本体に載らないことが多く、決算説明会資料やKPIスライドで開示されている。
健全なSaaSの目安は、粗利率60%超、解約率月次1%未満、LTV/CAC比率3倍以上、NRR110%以上。NRRが100%を超えていれば、新規獲得をゼロにしても既存顧客のアップセル・追加機能利用で売上が増える状態(純減なし)を意味する。
PSR(株価売上倍率)は、PERでは赤字でも評価できないSaaS銘柄を相対比較する指標として使われる。米国のSaaS指数では、Rule of 40を満たす企業のPSRが10倍前後、満たさない企業は5倍以下というレンジが目安となる。日本のSaaSはディスカウントされがちだが、評価軸として参考にできる。
落とし穴は、(1) 顧客集中度が高く特定大型顧客の解約で業績が崩れる、(2) 海外SaaSとの競合で価格決定力を失う、(3) AI機能の組み込みで開発投資が膨らむ、の3点。中期計画と研究開発費比率で、開発投資の方向感を確認したい。
該当銘柄の見方
該当社では、(a) ARR成長率・解約率・粗利率(説明会資料)、(b) Rule of 40を満たしているか、(c) NRR110%以上の高粘着性顧客基盤か、(d) 顧客集中度と海外競合との価格競争状況、を確認したい。
関連テーマのクラウド・DX・[HR Tech](HR Tech)・不動産テック・フィンテック・EdTech を併読すると、SaaS市場の業界別広がりが整理できる。