このテーマとは

ワクチンテーマは、感染症予防・治療を目的としたワクチン開発・製造・流通全般を扱う。具体的には、(1) 季節性インフルエンザ・肺炎球菌・帯状疱疹等の既存ワクチン、(2) mRNA ワクチン(COVID-19・インフル・RSV)、(3) 新興感染症ワクチン(パンデミック対応)、(4) がんワクチン(治療用・予防用)、(5) 小児定期接種ワクチン(DPT・MR・Hib・水痘)、(6) ワクチンアジュバント・添加剤、(7) ワクチン受託製造(CDMO)・原薬製造、までを射程に入れる。

事業環境は、薬価制度(公費負担・任意接種)、感染症法・予防接種法、新興感染症対応の政府備蓄・買上制度、国際的なワクチン外交、で形成される。

なぜ注目されているのか

第一の追い風は経済安全保障の要としてのワクチン国内製造体制強化である。COVID-19 で輸入依存の脆弱性が顕在化し、政府は ワクチン製造拠点整備、創薬支援基金(SCARDA)、緊急時の研究開発・上市加速制度(戦略的国産ワクチン製造体制)、を整備している。日本企業のワクチン国内開発・製造への政策支援は継続している。

第二に、mRNA ワクチン技術の汎用化と適応拡大。COVID-19 mRNA ワクチンの実用化を経て、mRNA 技術はインフル、RSV、サイトメガロウイルス、がんワクチン、希少疾患治療に展開している。日本企業も mRNA 関連事業(脂質ナノ粒子、原料、CMO)への参入が広がっている。

第三に、新興・再興感染症のリスク継続。COVID-19、エムポックス、鳥インフルエンザ、ラッサ熱、エボラ、中東呼吸器症候群(MERS)など、新興感染症は継続的に発生しており、各国政府の備蓄・パンデミック対応投資は構造的に増加している。100 Days Mission(100日以内のワクチン開発)等の国際イニシアチブも継続する。

第四に、がんワクチン・治療用ワクチンの上市進展。HPV ワクチン(子宮頸がん予防)の接種率回復、治療用がんワクチン(個別化ネオアンチゲンワクチン・mRNA がんワクチン)の臨床第3相進展で、ワクチン領域はがん治療と統合する流れにある。

逆風はワクチン忌避(ワクチンヘジタンシー)と、平時における需要変動である。COVID-19 後の追加接種需要は急減し、関連企業の業績は大きく振れた。HPV ワクチン副反応疑い問題のような社会問題が発生すると、関連事業の収益基盤が長期で損なわれる。

関連する事業領域

含まれる業種は、医薬品(ワクチンメーカー・大手製薬の予防接種事業)、化学(アジュバント・添加剤・脂質ナノ粒子)、サービス業(CDMO・受託研究・受託試験)、医療機器(注射器・自動接種装置)、卸売業(医薬品流通)など。

「ワクチン銘柄」と一括りにすると見落とすのは、(a) 感染症ワクチン(既存・既上市)と新興感染症ワクチン(新規開発・パンデミック対応)と治療用ワクチン(がん)で開発リスク・収益性・市場規模が大きく違う、(b) ワクチンメーカーと CDMO・原料メーカーで収益安定性が異なる、(c) 日本国内専業と海外展開企業でリスクプロファイルが違う、という点。

財務的にどう評価するか

ワクチンテーマで最初に見たいのは、関連事業の売上規模と、製品別構成(既存ワクチン/新興感染症/がん/受託)、定期接種・任意接種・公費の構成、海外売上比率、政府備蓄契約の有無、である。定期接種品目は安定収益、新興感染症対応は爆発的増加と急減、がんワクチンは長期開発フェーズ、と性格が大きく異なる。

利益面では、ワクチンメーカーは研究開発費・GMP 投資負担が重く、上市品目数が利益を強く規定する。CDMO・原料メーカーは安定収益が見込めるが、特定顧客への集中度が高い場合は変動が大きい。

落とし穴は3つ。第一に、新興感染症対応で先行買いされた銘柄が、需要急減局面で大きく下落する例が多い(COVID-19 ワクチン銘柄の動きが典型)。需要の持続性を冷静に評価する必要がある。第二に、ワクチン副反応・社会問題で関連事業が長期にダメージを受ける場合がある。第三に、定期接種品目の薬価改定や接種推奨見直しで業績が振れる。

中長期では、上市品目数、新興感染症ワクチン開発体制、CDMO・原料事業の規模化、海外展開、政府との戦略パートナーシップ、が事業価値の指標になる。

該当銘柄の見方

該当社では、(a) ワクチン関連事業の売上規模と製品別構成、(b) 定期接種・任意接種・新興感染症対応の構成、(c) CDMO・原料事業の比率、(d) 政府備蓄・契約の状況、を最低限チェックしたい。

関連テーマの創薬バイオテクノロジー核酸医薬がん治療ヘルスケアIT と併読すると、ワクチンが単独医薬品ではなく、経済安全保障・新興感染症対応・がん治療の交差点で動く政策連動型事業として位置づけられる構造が立体的に見える。