このテーマとは
核酸医薬テーマは、DNA・RNA を医薬品の有効成分として使う治療薬全般を扱う。具体的には、(1) アンチセンス核酸(ASO・標的 mRNA を分解または修飾)、(2) siRNA・shRNA(RNA 干渉でタンパク質発現を抑制)、(3) mRNA 医薬(タンパク質を体内で発現させる)、(4) アプタマー(核酸でできた抗体様分子)、(5) miRNA・antagomir、(6) 核酸ワクチン(mRNA ワクチン・DNA ワクチン)、(7) 関連の修飾核酸合成・DDS(脂質ナノ粒子・GalNAc)、までを射程に入れる。
低分子医薬・抗体医薬と並ぶ第三のモダリティとして、従来の医薬品では狙えない遺伝子発現レベルの制御を可能にする。希少遺伝性疾患、神経疾患、肝臓疾患、感染症、がんで上市が進んでいる。
なぜ注目されているのか
第一の追い風は mRNA ワクチンの実用化と核酸医薬全体への波及である。COVID-19 mRNA ワクチンの大規模実用化で、核酸医薬の安全性・有効性・量産製造が社会的に証明された。mRNA ワクチン技術はインフルエンザ・がんワクチン・希少疾患治療への応用が広がっている。
第二に、希少疾患・難治性疾患での承認ラッシュ。家族性アミロイドポリニューロパチー、脊髄性筋萎縮症、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、家族性高コレステロール血症など、従来治療が困難だった疾患で核酸医薬の上市が続く。少数患者に対する高単価薬として、企業利益への寄与は大きい。
第三に、肝臓・中枢神経への送達技術(DDS)の進化。GalNAc 結合型 siRNA は肝細胞特異的取り込みで皮下注射での投与を可能にし、年2回投与など長期作用型の利便性を実現した。LNP(脂質ナノ粒子)も中枢神経・がん組織への送達技術が進化している。
第四に、製造受託(CDMO)・原料製造の市場拡大。核酸合成・修飾核酸・LNP 製造は専門技術を要するため、製造受託(CDMO)の需要が高い。日本企業は核酸合成・修飾核酸原料・固相合成試薬で世界的なポジションを持つ。
逆風は開発・治験の難易度と臨床失敗リスクで、有望候補でも臨床第3相で失敗する例が多い。製造コストも依然として高く、対象疾患が拡大するには製造プロセスのさらなる効率化が必要である。
関連する事業領域
含まれる業種は、医薬品(核酸医薬メーカー・製薬大手の核酸事業)、化学(核酸合成原料・修飾核酸・固相担体)、サービス業(CDMO・受託合成・受託研究)、医療機器(投与デバイス)、卸売業(医薬品・原料)など。
「核酸医薬銘柄」と一括りにすると見落とすのは、(a) 創薬(自社品開発)と原料製造(CMC)と CDMO で収益構造・利益率・成長性が大きく違う、(b) 上市品目を持つ企業と開発段階の企業で業績の安定性が両極端に違う、(c) 大手製薬の核酸医薬事業は本業に対する売上比率が小さく、テーマ性と業績影響度が一致しない、という点。
財務的にどう評価するか
核酸医薬テーマで最初に見たいのは、自社品開発企業ではパイプラインの進捗(前臨床/第1相/第2相/第3相/申請/上市)と各フェーズの成功確率、対象疾患の市場規模、契約相手先の知名度、である。原料・CDMO 企業では受注高・受注残・主要顧客の集中度、を見る。
利益面では、自社品開発企業は研究開発費負担で長期赤字が続くケースが多く、契約一時金・マイルストン収入のタイミングで業績が大きく振れる。原料・CDMO 企業は安定的な売上・利益が見込めるが、特定顧客への集中度が高い場合は業績変動が大きくなる。
落とし穴は3つ。第一に、テーマ性で先行買いされた銘柄が、開発進捗の遅延・治験失敗で大きく下落する例が多い。第二に、競合企業の上市・優先順位変更で自社開発品の事業価値が大きく変わる。常に競合パイプラインを並行ウォッチする必要がある。第三に、製薬大手とのライセンス契約・共同開発契約は、契約条件で受領できる対価規模が大きく異なる。契約発表時の正確な評価が重要である。
中長期では、上市品目数、適応症拡大、製造プラットフォーム保有、CDMO 事業の規模化、海外売上、新規モダリティ(ターゲット型核酸医薬・LNP 投与系)の進展、が事業価値の指標になる。
該当銘柄の見方
該当社では、(a) 核酸医薬関連事業の売上規模・損益、(b) 自社品開発/原料/CDMO のどの位置取りか、(c) パイプライン構成と上市予定、(d) 大手製薬との契約・提携状況、を最低限チェックしたい。
関連テーマの創薬・バイオテクノロジー・再生医療・がん治療・ワクチン と併読すると、核酸医薬が単独モダリティではなく、低分子・抗体に続く第三世代モダリティとして製薬産業の構造変化を主導する位置にあることが立体的に見える。