このスクリーニングが向いている人
「1株の現金 > 株価」という直感的な見せ方で、ディープバリュー銘柄を探したい個人投資家向け。本質的にはネットネットスクリーニング(純現金 > 時価総額)と同じだが、「1株あたり○円の現金」と「株価○円」を直接比べる、より人間の感覚に近い表現で割安度を捉える。グレアム的な絶対値割安投資の入口として、初心者にも理解しやすい。
スクリーニング条件
| 条件 | 閾値 | 意図 |
|---|---|---|
| 純現金比率(net_cash / 時価総額) | 1.0以上 | 1株あたり純現金 ≧ 株価 |
| 自己資本比率 | 50%以上 | 純現金が借金で水増しされていない |
| 営業利益 | プラス | 本業赤字でないこと |
数学的には `net_cash_ratio >= 1.0` は `1株あたり純現金 >= 株価` と等価。本スクリーニングと「ネットネットストック」は同じ母集団を抽出するが、見せ方の切り口が違う:
- ネットネット: 「時価総額より純現金が多い」 → 全体感
- 本スクリーニング: 「1株の現金で株価が買える」 → 1株単位の感覚
1株純現金で考える意味
株価500円の銘柄が、1株あたり純現金600円を持っているとする。理屈の上では:
- いま株を買う → 500円支払う
- その瞬間に「あなたの株1株分」として600円の現金がBSに紐づく
- もし会社が解散して現金を株主に分配したら、あなたは600円受け取れる
つまり「500円払って600円の現金を受け取る」買い物が成立している計算になる。事業価値はマイナス100円と評価されており、本業から将来生まれるキャッシュフローを市場は完全に無視している状態。
実際にはこのように単純な裁定は成立しない(解散しない、現金は還元されない)が、「下値が現金で裏付けられている」「再評価のカタリストが効きやすい」という心理的安心感は大きい。
落とし穴・注意事項
①事業の継続性悪化が前提のケースが大半。 1株純現金 > 株価の銘柄の多くは、市場が「事業はもう成長しない」「むしろ縮小する」と判断している。事業がCFを生み続けるのではなく食い潰すフェーズに入ると、純現金は数年でじわじわと減り、純現金/株価の優位も解消する。直近のCFと中期計画を確認する。
②現金の質と用途。 BS上の「現金」「投資有価証券」が、実際に株主に還元できる原資なのかを確認する必要がある:
- 海外子会社の現金 → 本国還流時の税コスト、国によっては規制で動かせない
- 投資有価証券(政策保有株)→ 売却に時間、市況で時価変動
- 短期金融商品(社債・MMF)→ 流動性は高いが時価評価で含み損あり得る
③カタリスト不在で長期塩漬け。 純現金 > 時価総額の状態は10年でも続く。値動きを生むのは、特別配当・自社株買い・MBO・TOB・経営陣交代・アクティビスト介入など限定的なイベント。直近3年で何も動いていない企業は、さらに5年動かない確率が高い。
④自己資本比率50%でも内訳に注意。 本スクリーニングは自己資本比率50%以上を要求しているが、その内訳が「投資有価証券(評価差額金経由で純資産直入)」中心の場合、市況で純資産が変動する。直近のBS構成を確認する。
⑤小型株が大半。 1株純現金 > 株価の銘柄は時価総額300億円以下のものが大多数。流動性リスク・情報非対称性の問題を併せ持つ。複数銘柄に分散して保有する設計が前提。
ネットネットスクリーニングとの使い分け
両者は同じ母集団を抽出するが、
- 本スクリーニング(1株純現金): 個別銘柄を見る時、株価との直接比較で割安感を把握しやすい
- ネットネット: 母集団全体を捉える時、「時価総額500億円・純現金600億円」のような企業全体の見方
実務的には、ネットネットで母集団を抽出してから、個別銘柄ごとに「1株純現金 vs 株価」で割安度を確認する流れが標準。本スクリーニングはその後者を強調した見せ方。
業種別の特徴
- 製造業(金属加工・電子部品の小型): 内部留保が厚く該当多数
- 専門小売・卸売: 現金商売で資金繰りが楽、ネットネット該当多い
- 建設・住設: 受注前受金で現金が膨らむが運転資本拘束あり
- 製薬・バイオ(小型): 開発資金として現金保有、ネットネット該当でも事業価値は別途評価
- 金融業: 該当外、概念が事業会社と異なる
該当銘柄を見つけた後のチェックポイント
- 過去5年の現金推移: 増えているか、減っているか、横ばいか
- 株主還元方針の開示: 中期計画に総還元性向や自社株買いの方針が明記されているか
- ガバナンス・株主構成: 創業家比率、社外取締役比率、過去の株主提案への対応
- アクティビスト・大量保有報告: 物言う株主が入っているか
- PBR改善計画: 東証要請に対する具体的施策の有無