事業概要
クレハは、機能製品、化学製品、樹脂製品、建設関連、その他関連の5つのセグメントで事業を展開する総合化学メーカーです。機能製品事業では、フッ化ビニリデン樹脂やPGA(ポリグリコール酸)樹脂、PPS樹脂、球状活性炭などを、化学製品事業では農薬・医薬中間体や工業薬品などを、樹脂製品事業では家庭用ラップや釣糸、食品包装材などを製造・販売しています。建設関連事業では土木・建築工事を、その他関連事業では環境事業などを手掛けています。特にフッ化ビニリデン樹脂は、リチウムイオン二次電池用バインダーやシェールオイル・ガス掘削用途、PPS樹脂は高機能エンジニアリングプラスチックとして、それぞれ重要な製品群となっています。売上高の約38%を機能製品事業が占め、事業ポートフォリオの核となっています。
直近決算ハイライト
2026年3月期の決算は、売上高が前期比0.2%減の1,617億円となりました。営業利益は前期の94億円の黒字から186億円の赤字へと大幅に悪化し、経常利益も183億円の赤字、当期純利益も107億円の赤字となりました。この赤字転落の主な要因は、EV市場の低迷によるフッ化ビニリデン樹脂の需要回復の遅れに伴う固定資産の減損損失計上や、慢性腎不全用剤製造設備の減損損失計上によるものです。セグメント別では、機能製品事業はフッ化ビニリデン樹脂の販売減が響いたものの、PGA樹脂加工品やPPS樹脂の増加、炭素製品分野の好調により、前期の営業損失から41億円の営業利益へと黒字転換しました。化学製品事業は減収ながらも原材料価格の下落により営業利益を大きく伸ばしました。一方、樹脂製品事業は熱収縮多層フィルム事業の撤退影響等で減収減益となりました。純資産は21.1%減の1,652億円、総資産は2.0%減の3,384億円となっています。
強みと競争優位性
クレハの強みは、長年にわたり培ってきたフッ素化学や高分子化学における高度な技術力にあります。特に、フッ化ビニリデン樹脂においては、リチウムイオン二次電池用バインダーや高機能エンジニアリングプラスチックとしてのPPS樹脂などで、独自の技術と品質により国内外で高い評価を得ています。また、PGA(ポリグリコール酸)樹脂加工品も、シェールオイル・ガス掘削用途などで需要があります。家庭用ラップ「NEWクレラップ」や釣糸「シーガー」といった消費者向け製品においても、確固たるブランド力と顧客基盤を有しています。さらに、5つの事業セグメントで多角的に事業を展開していることにより、特定市場の変動に対するリスク分散を図り、安定した事業基盤を構築しています。研究開発力強化への投資も継続しており、新製品・新技術の開発を通じて競争優位性の維持・向上を目指しています。
リスク要因
当期の業績悪化の主因となったように、EV市場の動向やそれに伴うリチウムイオン二次電池用バインダーの需要変動は、クレハにとって重要なリスク要因です。フッ化ビニリデン樹脂事業への依存度が高いため、市場の停滞が直接的に業績に影響を与えます。また、グローバルな事業展開に伴う地政学リスクや、原材料・エネルギー価格の変動も収益を圧迫する可能性があります。環境規制の強化、特に有機フッ素化合物(PFAS)に対する規制動向は、フッ化ビニリデン樹脂事業に影響を与える可能性があり、注視が必要です。さらに、新技術開発の遅延や技術競争力の低下、多様な人材の確保・育成の遅れも、中長期的な成長を阻むリスクとなり得ます。ITリスクやDX推進の遅れも、効率性や競争力低下につながる可能性があります。
投資テーマとの関連
クレハは、EV市場の動向と密接に関連するフッ化ビニリデン樹脂を供給しており、EVシフトの進展が同社の成長機会となり得ます。リチウムイオン二次電池の性能向上に不可欠な部材であるため、今後EV市場が回復・拡大する局面においては、その恩恵を受ける可能性があります。また、高機能樹脂であるPPS樹脂は、自動車の軽量化や電子機器の高性能化に貢献する素材であり、これらの分野における技術革新や需要拡大とも関連が深いです。さらに、気候変動対策やカーボンニュートラルへの取り組みを経営の重要課題と位置づけており、環境負荷低減に貢献する製品開発や製造プロセスの改善は、サステナビリティ投資の観点からも注目される可能性があります。DX推進にも力を入れており、AIなどの先端技術活用による研究開発や業務効率化は、将来的な競争力強化に繋がるテーマです。