このスクリーニングが向いている人

「PERでは見えない、買収目線の本当の割安度を測りたい」M&A経験者・PEファンド出身者・上級バリュー投資家向け。EV/EBITDA は、買収する側の視点で「企業を丸ごと買って何年で投下資本を回収できるか」を測る指標。PERが「株主視点」なのに対し、EV/EBITDA は「企業全体の所有者視点」で、財務レバレッジ(負債・現金)の影響を取り除いた純粋な事業価値評価ができる。PEファンド・戦略買収を意識した株式評価の標準ツール。

スクリーニング条件

条件閾値意図
EV/EBITDA5倍以下買収しても5年で投下資本を回収できる水準
EV/EBITDAプラス計算が成立する(EBITDAマイナスを除外)
営業利益プラス黒字
自己資本比率30%以上倒産リスクの低い最低ライン

EV/EBITDA 5 倍は「企業全体を時価で買って5年で投下資本を回収できる」水準で、PEファンドの典型的な投資基準(4-7倍)の下限近く。一般市場のEV/EBITDA 中央値は 8-10 倍程度なので、5倍以下は「明確に割安」と言える領域。

EV/EBITDA とは何か

EV(Enterprise Value、企業価値) は、買収する側が支払う総額:

EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, Amortization) は、減価償却費・支払利息・税金を引く前の利益:

EV/EBITDA は「企業全体を買うのに払う金額」を「年間の現金生成力」で割った値で、何年で投下資本を回収できるかを示す。

PERとの違いは:

PER 8 倍でも借金漬けの企業は EV/EBITDA で 12 倍ということがあり、逆に PER 15 倍でも現金潤沢で EV/EBITDA 5 倍ということもある。買収視点の本当の割安度はEV/EBITDA で見る。

落とし穴・注意事項

①EBITDA は「キャッシュフロー」ではない。 EBITDA は営業利益+減価償却費で計算されるが、運転資本変動・設備投資(CAPEX)を含まない。設備投資が重い業種(電力・通信・鉄道)では、EBITDA は出るが実際のキャッシュフローは少ない。EV/EBITDA だけで割安と判断せず、フリーキャッシュフロー(FCF)も併せて確認する。

②シクリカル業種のピーク EBITDA。 海運・鉄鋼・半導体製造装置は業績ピーク時に EBITDA が最大化され、EV/EBITDA が3-4倍に下がる。これは「割安」ではなく「ピークアウト手前」のシグナル。業界サイクル位置を確認する。

③減価償却費の質。 過去の M&A で計上されたのれんや、加速償却で前倒し費用化した設備など、減価償却費の中身は多様。EBITDA は会計上のノイズを除去する建付けだが、過剰なM&A・減損リスクを抱えた企業を「割安」と誤認する可能性がある。

④金融業は適用不可。 銀行・保険・証券は事業構造そのものが他人資本依存型で、EV・EBITDA の概念が事業会社と異なる。本スクリーニングは事業会社のみを対象。

⑤現金潤沢でEV/EBITDAが極端に低い場合。 純現金が時価総額の50%以上を占める企業は、EV(= 時価総額 - 純現金)が小さくなるため、EV/EBITDA が3倍以下になることがある。これは「事業価値が極端に低く評価されている」のではなく「現金で裏付けられているから EV が小さい」という性質。net_cash_ratio と組み合わせて判断する。

業種別の特徴

該当銘柄を見つけた後のチェックポイント

  1. 過去5年のEV/EBITDA推移: 安定的に低位なのか、業績ピークで一時的に低いのか
  2. CAPEX/EBITDA: 設備投資負担、フリーキャッシュフローの実態
  3. 同業他社比較: 業界平均より明確に低いか、業界全体が割安か
  4. のれん残高: 過去M&Aの残骸、減損リスク
  5. 買収防衛策の有無: PEファンド・戦略買収の対象になりうるか